昨今、世間的には教師の働きすぎという認識は、広く知れ渡っています。
この記事では
- 本当にそんなに働いているの?
- なんでそんなに長時間になるの?
- 長時間労働になってしまう理由って、なんなの?
という、教師の長時間労働の素朴な疑問について、高校教師歴10年以上の松梅タケがお話しします。
目次
教師の仕事にはそもそも、残業という概念がない
教師が定時に帰れない理由をお話しする前に、まずは教師の勤務時間について掘り下げていこうと思います。
教師の勤務時間について
朝の職員朝礼開始時刻が、勤務開始時間って人が多いとおもいます。
概ね、8時前後でしょうか。
一応、教師の勤務時間は各条例によって決められていますが、最大でも8時間(労働基準法32条)ですので、休憩を考えなければ16時までが就業時間。
そこに(こちらも法律で定められている)休憩時間の45分~1時間をいれたら、17時が終業時間に設定されている場合がほとんどでしょう。
労働時間が6時間を超える場合は少なくても45分間、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなくてはいけません。
7時間45分ということは8時間を超えませんから、45分の休憩時間を入れなくては法律に違反してしまいます。
生徒の在校時間=最低限の勤務時間、という実態
多くの学校では職員朝礼が終わってすぐに朝のSHRが始まるので、教師の始業時間にはすでに多くの生徒は登校しているはずです。
そして終業時間である17時も、未だ生徒の多くが残っている時間ですよね?
そうなんです、教師の勤務時間というのは生徒在校時間と同じなんです。
生徒の在校時間が勤務時間となっているにも関わらず、始めから勤務時間外の仕事が成立しているんです。
本来残業とは、勤務時間内に終わる仕事が終わらないことをいう
本当であれば生徒が登校している勤務時間内に、教師として必要な仕事をすべてこなさなくてはいけません。
現状、日本の教師に課せられている教師として必要な仕事や役割は、この5つに分けられると考えます。
- 話し手(授業・分掌)
- 聞き手(分掌・生徒保護者対応)
- 部活動
- 自己研鑽(研修)
- 事務処理
このすべてを(休憩時間を抜いて)7時間45分〜8時間でこなすわけです。
だからこそ、休憩時間にも仕事をしたり、生徒が帰った後にも教師としての仕事をしなくてはいけない現状となっています。
ここで、残業という言葉の意味についておさらいしておきます。
ここがポイント。
勤務時間内に終わらせられるであろう仕事
もともと教師に課せられた現状の仕事量は、7時間かそこらの勤務時間内に終わる業務量じゃありません。
よって教師の仕事に、残業という概念はありません。
残業があって成立する仕事、それが教師の働き方です。
なぜ、教師の仕事は残業になるのか?
なかには
と感じる人もいるかもしれませんね。
ここからは、なぜ教師の仕事は残業になるのか考えてみます。
授業の準備は、結構時間がかかる
例えば、授業の準備。
多くの人は聞き手の立場しか経験しませんのでわからない部分もあるかもしれませんが、授業の準備一つとってもその作業は膨大です。
生徒は聞き手の立場ですから特別な準備は必要ないですが、話し手である教師はそういきません。
わかりやすいところでは「話す内容を理解し、整理する」ってこと(授業案・展開例)があります。
他にも、教室の環境整備みたいな雑務(掃除)なんかも、授業のための準備になります。
昨今では
などと言われるので、単純に「プリント刷っておしまい!」とはならず、さまざまな工夫や、新たな準備も当然必要になります。
50分授業の準備は、最低でも同じ50分が必要になってくる
そんな風に言われた覚えがあります。
1回の授業は50分で設定している学校が多いと思いますので、それを例にしてみます。
50分の授業のために必要な準備の時間は、やはり同じく50分かかります。
横展開(同じ科目や単元を扱う別クラス)ができるなら使い回しができるので、その場合準備の時間は短縮できるでしょう。
例を出しましょう。
東京のテレビ番組収録では、1時間番組の場合でだいたい2時間の収録時間になるのだそうです。
収録現場での作業以外にも、取材(ロケ)や編集作業もあります。演者さんたちを迎え入れるための楽屋準備や、セットの組み立てなんかもありますよね。
または、収録じゃなく生放送(2時間)の場合はどうでしょう?
演者によって多い少ないはあるでしょうが、すくなくとも放送開始の2時間前から準備を始めていることでしょう。
朝の生放送に出ているアナウンサーの出勤時間が、午前2時や3時と聞いたことがあります。
2時間の収録時間に対して、2時間の準備時間がかかっている。
このことから、主体的に話す時間=そのために必要な準備時間ということはわかってもらえるでしょう。
授業に話を戻してみましょう。
50分の授業のためには、やはり準備時間として最低でも50分程度は必要になってきます。
1週間に15コマ分の授業があるならば、15コマ分の準備時間が同時に必要だということです。
授業を使いまわしたり準備の要領を覚えてくると、その分だけ準備時間を減らせます。
それでも全くの0ということにはならないですけどね。
話し手としての仕事だけで、勤務時間を使い切ってしまう
教師の勤務時間は、7時間45分〜8時間。
平日5日間で考えれば、一週間あたり最大でも40時間になります。
統計は取っていませんが、だいたい教師の一週間の持ちコマ数は15~20ほどです。
仮に、最も少ない週15コマの授業数で考えても
- 授業50分×15コマ=12時間30分
- 授業準備時間50分×15=12時間30分
合計25時間。
週の勤務時間40時間のうち、25時間が授業関係(話し手)で埋まることがわかります。
これに
- 朝の会や帰りの会(SHR)
- 毎日の清掃活動の時間
など、授業準備に関わるような業務を加えれば、1日あたり合計30分から1時間(週で5時間程度)がさらに必要になります。
いいですか?
本来であれば週の勤務時間のうち、8割近い時間は話し手の業務の時間として、すでに埋まっているハズなんです。
これにプラスして、先ほど紹介した教師の業務のうち残り4つ。
話し手(授業・分掌)- 聞き手(分掌・生徒保護者対応)
- 部活動
- 自己研鑽(研修)
- 事務処理
これらの時間が足されます。
だからこそ、自分一人でできるような仕事、特に授業準備や成績処理などの事務作業は、生徒が帰ったあとにやらざるを得ない状況になっています。
本当は授業こそ教師の本分だから、その準備も勤務時間内にやるべきなんだけど、周りがそれを許してくれないからね。
何度も繰り返して恐縮ですが、教師の仕事はもともと、40時間で終わらない仕事を与えられています。
残業なんて概念、いちいち考えているほうが疲れます。
長時間勤務になるのは、教師の出勤時間を把握していない事が理由なのか?
冒頭紹介した記事(参考記事)でも触れられていたのですが、教師の勤務時間が長くなる理由の一つに
という見方が、世間的にはあります。
学校で教員の長時間労働がやまない背景の1つに、労働時間の管理が厳密になされていないとの指摘もある。今後、港区では、労働時間を把握するためのタイムレコーダーの設置も検討中だという。
でもこれって、ズレてると思うんです。
勤務時間を把握しただけでは、根本解決にはならない
出勤時間や退勤時間を管理できるようになれば、客観的かつ具体的にどのくらい長時間勤務をしているかの実態把握にはつながるでしょう。
しかし、問題解決や環境改善策には全く繋がりません。
ま、文科省や教育委員会もそこまでアホじゃない(と思いたい)ので
とは考えていないでしょう。
教師の勤務時間の問題を根本的に解決するのは、(先ほどから散々話しているように)まずは上の者たちが、現場が異常事態だということに気づいているかどうか。
そもそも教師に課されている仕事内容の量が、週40時間では終わらない量であるということに、気がつかないといけません。
こんな風に言わんばかりの対応をみていると、上の人たちは(多分)わかってても気づかないフリをしているんじゃないのか? とさえ勘ぐってしまいます。
(話題になった)教師に変形労働時間を取り入れようという動きがあったり、初めから残業ありきで働いてもらおう(お願いしよう)としている管理職の発言もありますからね。
参考記事にも書いてありました。
実際、各学校の取り組みをみてみると、長期休業期間中は多くの学校で定時退勤(午後4時45分、午後5時など)を目標に掲げるが、中には「午後6時30分には退勤する」程度にとどめた学校もある。
現場がこんな状態なのは上は知っているはずなのに、今さら勤務時間を把握したところで、何がかわるというのでしょうか?
タイムカードを導入して、変形労働時間制にもっていきたいと考えている?
私が思うに、文科省や教育委員会の本音はタイムカードを導入して、データ収集をしたいだけだと思うのです。
実際そう言ってますしね、定時退勤の手段ではなくあくまでも現状を正確に把握するためだと。
さらに私が感じているのは、その集められたデータを基に労働基準法における変形労働時間に落とし込みたいって狙いがあるんだと思います。
要は
- 繁忙期(長時間働いている時期)と、閑散期(定時に帰れている時期)を判断
- 繁忙期の勤務時間を伸ばして、定時に帰れている時期は勤務時間を短くしていく
そのための判断材料にしたいだけ。
事実、文科省のホームページにはデカデカとすでに変形労働時間について書かれています。
変形労働時間制変形労働時間制
(1) 労働基準法における変形労働時間制の概要民間労働者は、労使間の合意がある場合には、1ヶ月間の変形労働時間制(労基法第32条の2)や、1年間の変形労働時間制(労基法第32条の4)が認められている。
(参考) 『変形労働時間制』概要:ある一定の対象期間において平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で、同期間内の特定の週において40時間以上、特定の日において8時間以上の労働をさせることができる制度。
制度の趣旨:労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し、週休二日制の普及、年間休日日数の増加、業務の繁閑に応じた労働時間の配分等を行なうことによって労働時間を短縮することを目的とするもの。
1年間の変形労働時間制の趣旨:例えば、建設業や百貨店などの販売業のように年間を通じて業務の繁閑を繰り返す業種において、それぞれの事業形態に合わせた労働時間を設定することにより、労働者が効率的に働く事や労働時間の短縮を可能にするもの。
引用 文科省のホームページ
季節要因等で忙しくて仕事が終わらないから、残業しているんじゃないんですよ。
初めから勤務時間内で終わる量の仕事じゃないから、残業しているんですよ。
勤務時間が長期化する原因の最たるもの、それは業務量の多さ|まとめ
教師の本来の仕事の内容は話し手として仕事すること、すなわち授業です。
そこに係る時間は、最低でも30時間は必要でしょう。
この30時間という数字は、週15コマ(15回)しか授業がない教師で計算した数値です。
授業がものすごく少ない教師ですら(15コマは少ないに入る)、これだけの時間が必要なのです。
これに付帯して
- 自分のクラス40人
- 授業を受け持っているクラス数×40人
- 部活動の部員
- 上記3つに関わる関係人(保護者など)
- 分掌等に関わる関係人
などなど、ざっと見積もっても300人以上を相手に、聞き手としての仕事も外すわけにはいきません。
もうお分りいただけたでしょうが、週40時間の勤務時間なんての話し手と聞き手の2つだけで埋まります。
と言えます。
本気で教師の労働環境を改善したいなら
- 部活動
- 自己研修
- 事務処理作業
これらを完全に無くす以外に、道はありません。
それができないなら全ての教師が定時で帰るなどということは、夢物語や理想論でしかないでしょうね。
業務量が多すぎます。
ちなみに私は自分で部活動を切ったり、不要な仕事を減らしていきました。
定時に帰るための努力に個人では限界がある場合、考え方を変えるだけでも効果は高いでしょう。
このままいくと、私みたいに教師そのものに魅力を感じなくなり転職したり、そもそも教師になりたくないと思う人たちが多くなるでしょうね。